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2020年04月07日

新年度のスタートに向けて

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油絵学科版画専攻 主任教授 遠藤竜太

 

油絵学科版画専攻、そして大学院修士課程、博士課程にご入学された皆さん、おめでとうございます。2年・3年・4年、大学院2年に進級された皆さん、今年度もがんばりましょう。

授業開始が大幅に遅れて、皆さんはこれからの大学生活がどうなるのだろうかと不安で一杯だと想像します。
私たち研究室スタッフも、しばらく続くと思われるこの状況の中で、はたしてどのように授業をしたら良いかと悩む毎日です。とにかく事態の早い終息を祈るばかりです。
しかし、だからといって制作(研究・学習)をしない訳にはいかない、むしろこんな時だからこそ制作しなければならないと皆さんも考えていることでしょう。
私は前向きに取り組む皆さんの姿を想像して、年度のスタートにあたりメッセージを記そうと思いました。

武蔵美版画専攻のカリキュラム・ポリシーは、端的に言えば「伝統と革新」の追究です。武蔵美に版画のクラスができた当初から、革新的である事を身上としてきました。
例えば、国内でいち早く版画にデジタル技術を導入したり、版画の大型化の流行を牽引したり、映像やインスタレーションによる現代美術的表現への展開を試みるなど、常に既存の版画の枠を超えようとする研究を行ってきました。
そして一方では、伝統木版(浮世絵版画)を学んだり、石版画や銅版画の原初的な技法を研究したり、博物図譜や解剖図譜などを通して版画の出自である印刷や出版について研究するなど、版画の本質的な”伝統”も大切にしてきました。
版画専攻で学んだ多くの卒業生たちが様々な領域で活躍しているのも、それぞれの素晴らしい表現の根底に、この「伝統と革新」というポリシーが息衝いているのだと信じています。

さて、私たちは今まさに過去に経験をしたことの無い事態に直面し、これをどう乗り越えていくのか、試練の年となっています。
工房で展開する従来の四版種を中心とする授業を、いつから実施することができるか現時点ではわかりません。
カリキュラムの入れ替えや変更も必要となり、様々な不自由な思いをするかもしれません。
しかし、物事に対処する柔軟性、適応能力の高さが版画専攻の学生たちの魅力だと感じているので、不自由な中から新しいことを見いだすことは案外得意なのではないかと思っています。
版という制約の中から自由で解放された表現を見出す“版画制作”に似ているからです。
私は常々版画の武器は「しなやかでしたたか」なことだと言っていますが、この局面でその“しなやかさ”と“したたかさ”を発揮して版画の革新性の追究に転換しましょう。
授業開始までもう1ヶ月ほどありますが、版に対峙できない時間こそ版画について理解を深めるためにも、自宅で出来る様々な方法で自身の表現を探ってみてください。